大津地方裁判所長浜支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人両名はいずれも無罪。
理由
本件公訴事実は
被告人両名は後藤ミキ、後藤松次郎及び宮川泰三等五名と共有に係る滋賀県坂田郡米原中町大字米原中町第二百三十四番地上建設木造木皮茸平屋建店舗一棟建坪十一坪五合竝木造瓦茸二階建居宅一棟建坪十坪七合五勺外二階坪八坪七合五勺を右後藤ミキと共に占有使用して右五名共同の下に米原食堂と称する飲食店を経営していたものであるが右共同者である後藤松次郎及び宮川泰三を排除して被告人両名及び後藤ミキ等三名のみで右共有建物を使用し会社組織を以て食堂を経営しようと企図し昭和二十三年八月十二日共謀の上右占有に係る建物二棟を檀に右三名名義にて現物出資して有限会社米原食堂を設立し同年九月二十一日大津司法事務局米原出張所に対し同会社名義を以て所有権保存登記申請を為し即時同出張所係員をして同所備付の不動産登記簿に右会社のため同建物の所有権の登記を経了せしめこれを横領したものである。
と謂うにあつて、右事実は被告人両名の当公廷に於ける各供述及びその他の本件各証拠を綜合して優にこれを認めることが出来るが後記の理由により右事実関係のみを以ては横領罪を構成しないものと考える。
およそ横領罪は自已の占有する他人のものにつき成立する。
而して右に所謂「占有」は適法なものでなければならないこと勿論であるが、横領罪の目的物が不動産である場合、刑法上他人の不動産を占有すると謂うには、他人に於て法律上不動産を他に有効に処分し得べき状態に在らねばならない。
従つて他人所有の未登記建物につき檀に自己名義に保存登記を申請しその旨の登記を受けてこれを他に処分しても横領罪は成立しない。何となれば該保存登記は原因を欠如せる無効の登記であつて法律上何等の効力を生ぜず、右登記に基因する爾後の登記は全部抹消せらるべき運命に置かれることとなり、結局右の場合は法律上有効にこれを処分し得べき状態にあるとは謂えないのであつて右保存登記により該建物の占有者とはならないからである。
本件についてこれを見ると、被告人両名及び後藤ミキは後藤松次郎及び宮川泰三等と五名共有に係る本件未登記建物(横領罪の客体として他人のもの中に共有物をも包含することは問題ない)を宮川泰三等に無断で檀に有限会社名義に保存登記をすることにより被告人等三名のみの現物出資をしたのであるが、元来ならば右未登記建物につき一旦被告人等三名名義に保存登記を経由し更にこれを右会社名義に移転登記をなすべきを中間登記を省略して前記の如く直接会社名義に保存登記をなしたものであつて、この場合とても前に説示した不動産の占有に関する法理の適用については些かも差異はないものと解する。然らば被告人等は本件建物につき刑法第二百五十二条に所謂「占有」をしていたものとは謂えないから、本件公訴事実は横領罪の成立なきものと認める外はない。
よつて本件被告事件は罪とならないものであるから刑事訴訟法第三百三十六条を適用し無罪の言渡をする。
以上の理由で主文の通り判決する。(昭和二五年一二月二七日大津地方裁判所長浜支部)